籠の桃目だけで探る熟れ具合 中野 枕流
籠の桃目だけで探る熟れ具合 中野 枕流
『合評会から』(日経俳句会)
朗 桃に限らず、スーパーで無闇に食品に触る人がいると憤慨する妻の繰り言を日々聞かされる立場からも、目だけで探ることに共感しました。
雀九 自分も同じようにしているので選びました。
実千代 目だけで探るという言葉と、籠の桃との取り合わせが上手です。段ボール箱の桃は目で探ってもよく分からないけど、籠なら上からも下からも見えるので食べ頃かなとか分かる。二つの言葉が響きあっている。
二堂 触れずに目だけで熟れ具合を確かめるのは難しいですよ。
早苗 真剣なまなざしを想像した。
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「触れないでください桃が傷みます 双歩」という売場の貼紙をそのまま詠んだような傑作も出された。りんごや梨や柿などはまだしも、桃の実は繊細で、そっと触っただけでも、その部分が茶色く変色し傷んでしまう。だから産地での収穫、箱詰作業も、市場や店頭での取扱も非常に神経を使う。
近所のスーパーで桃を真剣ににらんでいるオバサンがいた。私も買おうとしていたので、オバサンの選び終るのをじっと待っていたのだが、いつまでたっても決まらない。「これが良さそうですよ」と一つの籠を毅然とした表情で指したら、オバサン、ほっとしたようにそれを抱えてレジに向かった。もし美味くなかったらどうしよう、恨まれるだろうなあ。
(水 23.08.26.)