姿見の残れる宿や月見草 星川 水兎
姿見の残れる宿や月見草 星川 水兎
『合評会から』(日経俳句会)
青水 作者が見えて来るような俳句。姿見と云う小道具が効いている。月見草が咲いている風景が見えて来た。
迷哲 昔、草津の木造の古い宿に行ったことがあります。そこに鏡台って言うんですか、姿見が置いてあって。その雰囲気が月見草に合うなと思いました。
方円 ここで言っている姿見は、和風旅館の昔風の鏡台なんでしょうね。もうすっかり見なくなった。それが残っているというので、相当古い和風旅館だなと想像できる。一階の部屋で庭があって夜、月見草が見えた。俳句らしいと思います。
昌魚 昔風の姿見の残る宿。いろいろなことが想像できて興味深いですね。
枕流 ひなびた温泉旅館でしょうか。妙齢の女性が梳る後ろ姿が思い浮かびます。
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姿見のある旅館と月見草とくれば、竹久夢二のイメージ。それに引きずられてしまうのが少々弱みだが、静かで落ち着いた感じがして、古風だけれどもとても良く出来た俳句だと思う。評者がほとんど同じような情景を思い浮かべての句評をしているのを見ても、こういうのが多くの共感を得る句というのだろう。一歩間違えば取り柄のない平凡な句になってしまう。それを「姿見の残れる」というフレーズで凡百を抜け出した。
(水 23.08.10.)