しわしわの手にもエチュード秋の夜 池村実千代
しわしわの手にもエチュード秋の夜 池村実千代
『季のことば』
音楽については全くの無知と言った方がいいのだが、それでも「エチュード」が「練習曲」であることは“知識”として記憶の底にあった。この句を見て、秋の夜長をピアノかバイオリンか、何かの楽器の練習をしている優雅な高齢婦人の姿が浮かんだ。いい雰囲気の句だなあ、秋の夜と楽器のお稽古はよく似合うなあと感じ入った。
秋の夜長となればいつまでも酒ばかり飲んでいる己に引き比べ、エライものだ。彼我の隔たりの大きさに愕然とした拍子に、この句に一点献じた。そうしたら、私ほど飲みはしないものの同じ程度に体のあちこちが錆びついてきている同い年の句友が採っていた。「やはり同じような感慨を抱くのだな」と安心した。
さて作者が分かってみれば、「しわしわの手」と言うのが大げさな、私よりぐんとお若い人だ。とは言っても世間的にみれば確かに「おばあちゃま」の域に達している。それでもなおピアノをはじめ楽器演奏に励み、日々練習に勤しんで居られる。子どもたち相手の音楽教室の講師もされているらしい。そしてそれを俳句に詠む。実に素晴らしい。
くやしまぎれの憎まれ口みたいだが、「手にも」という言い方がどうかなと思った。「しわしわの手もてエチュード秋の夜」の方がいいんじゃないかな、なんぞと呟きながら、ぐいっともう一杯。
(水 23.08.30.)