老守衛袖もまくらぬ大暑かな 斉藤 早苗
老守衛袖もまくらぬ大暑かな 斉藤 早苗
『この一句』
掲句一読、これまで当ブログでも取り上げたいくつかの作品が浮かんだ。植村方円さんの「赤銅の警備員ゐて秋の風」と「紫陽花をコップに生けて守衛室」、大下明古さんの「警備員灼くる持ち場を動けずに」など、どれも味わい深く、句会で人気を博した佳句だ。
守衛、警備員、ガードマンなどの職場は概ね炎暑や極寒という過酷な条件下で働いているイメージがある。猛暑の中、道路の補修工事で赤色灯を手に交通整理をしている警備員を見かけると、その大変さが実感できるだけに「ご苦労さん」、思わず声を掛けたくなる。
掲句もまた然り。暑さが最も厳しい季節とされる大暑の炎天下、袖もまくらず黙々と任務に励む老守衛に、作者は心の中で声援を送っている。この句を採った人は、「袖もまくらぬ」に暑さに耐える老守衛の矜持を感じる、と口々に述べた。働く人をじっくり観察し、袖まくりにスポットを当てた着眼点の鋭さ。老、守衛、袖もまくらぬ、と人物像を畳みかけ、その十二音を季語の大暑が支える詠みっぷりも淀みがなく、また新たな労働者像が刻まれた。
ところで最近、工事現場などでクールベストという両サイドに送風ファンがついた特殊なベストを着ている作業員をよく見かける。守衛さんや警備員も令和の暑さ対策を十分施して、暑い夏を乗り切って欲しいと切に思う。
(双 23.07.26.)