交差点渡りたくない大暑かな   旛山 芳之

交差点渡りたくない大暑かな   旛山 芳之 『この一句』  俳句の良し悪しを決める判定基準の重要なものの一つが「共感」である。思わず膝を打って、「ああ、そうだよなあ」と言いたくなる気持である。この句はその判定基準にぴたりとはまるものではなかろうか。  句会の合評会では、「信号が変わるまでは影がある所に引っ込んでいて、変わったなという瞬間に踏み出す。勇気がいるなあっていう、あの感じ」(愉里)、「するすると読み手の心に入り共感します」(健史)、「建物の陰や木陰から出たくない気持」(雅史)、「そんな気持になるこの暑さ」(静舟)と、異口同音の句評が寄せられた。まさに「共感が得られた」わけである。  渋谷や数寄屋橋の大きな交差点は今や国際的にも有名になり、外国人観光客グループがわざわざここを目当てにやって来て、交差点の真ん中で派手なポーズをとって記念撮影に興じたりしている。彼らにとっては暑ければ暑いほど、それがまた土産話になって面白いのだろうけれど、通勤通学でそこを毎日渡らなければならない人間にしてみれば、「いやあ、なんともでかい交差点だなあ」とうんざりする。アスファルトの火照った路上はことさらに暑い。「交差点渡りたくない大暑」とはよく言ったものだ。  令和5年7月23日・大暑、東京都心35℃。交差点路面42℃。 (水 23.07.25.)

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