雲の峰昇段試験いざ参る 徳永 木葉
雲の峰昇段試験いざ参る 徳永 木葉
『この一句』
夏空にもくもくと湧き上がる雲の峰(入道雲)には、何らかの目標に立ち向かう若者の心意気を軽々と受け止めてくれるような、度量の大きさが感じられよう。掲句の場合は柔道か剣道などの昇段試験を明日に控えているらしい。「よし、やるぞ」という気合は既に十分。雲の峰は、そんな若者の思いをふんわりと、そしてしっかりと受け止め、励ましてくれるに違いない。
実は筆者の場合も、まさにこの句に詠まれたような体験を何度か踏んでいる。その最後と言えるのが大学時代の柔道の昇段試験であった。まだ柔道の体重制が採用されていない頃だから、何と今から六十年以上も前のこと。明日はどんな相手と取り組むのか、などは全く分かっていない。結局、自分より三十㌔も大きな相手との対戦となり、敢え無く敗戦の憂き目を見ることになる。
句会で掲句を見て、そんな昔の苦杯を思い出していた。あの前日、講道館での稽古を終えた後の帰途、西空を見ていたら、そして夕焼けの雲の峰に向かって「昇段試験いざ参る」と心中を打ち明けていたら・・・。しかし、相手が強すぎた。何度戦っても勝てるとは思えない。次の句会で句の作者に会ったら「結局は実力の問題だよね」と笑い合うことになるのだろう。
(恂 23.07.19.)