梅雨晴れにキャリーケースと中国語 荻野雅史
梅雨晴れにキャリーケースと中国語 荻野雅史
『季のことば』
「梅雨晴」は「梅雨晴間」とも「五月晴」とも呼ばれる、梅雨の長雨の一休みである。じとじとと降り籠められ、うんざりしきっていた長梅雨がふっと止んで、お日様がぱーっと照る日がある。皆々生き返ったような気分になる。
「下町の十方音や梅雨晴間 石塚友二」という句がある。それっとばかりに洗濯物を干したり、ゴミ出しに走ったり、布団を叩く音が響いたり、向こう三軒両隣一斉に動き出す。下町のごちゃついた路地が打って変わって活気づく、梅雨晴の朝の様子を活写した句である。
一方、この句は空港ロビーの情景か、浅草や銀座など下町繁華街の景色か。ともかくキャリーケースと中国語がにぎやかに飛び交うというのだから、まさに現代の梅雨晴れ風景である。町中でも電車の中でもそうだが、中国人観光客はどうしてああもにぎやかなのか。いかにも今まさに国力充実の民、という感じである。そう言えば1970年代後半から90年代までのわれわれ日本人がそうだったなあ、などと懐かしがる。
コロナが五類というインフルエンザ並の等級に格下げされて、外国人観光客の入国時検査が緩やかになり、またどっと入って来るようになった。これからの日本はこうした外客に頼るよりほか無くなってしまったようだ。数十年前のウイーンやイタリー、スイスあたりの街と同じ「貸座敷業国家」への道。多少騒がしくても、大事なお客さん。我慢するとしましょうか。
(水 23.07.04.)