ワコールの水着を着けて八十歳 横井 定利
ワコールの水着を着けて八十歳 横井 定利
『この一句』
ワコールは女性用下着の有名メーカーだが、水着を作っているとは聞いたことがない。だから最初に読んだ時には、受け狙いの作った句ではないかと思った。念のため同社のホームページを検索すると、ワコールの水着はちゃんと存在するのである。
下着メーカーらしく、体のラインを整える補正機能をもったシェイプアップ水着をかなり前から販売している。体全体を覆うタイプが主流で、黒や紺・紫の幾何学模様などおとなし目のデザインが多い。これなら80歳の婦人でも抵抗なく着用できるだろうと納得した。
となれば掲句への評価も変わってくる。描かれているのは現代のプールの情景であり、高齢化社会の女性像を鮮やかに切り取った一句と言える。ブランド物の水着に身を包み、プールに現れて悠々と泳ぐ80歳の女性。句会では「素敵な水着姿の高齢女性の元気な様子が分かる」(昌魚)とか「ワコールが決まっています。ミズノじゃないですね」(ヲブラダ)など、好意的な見方が多く、二席九点を獲得した。
ワコールの水着と80歳女性の取り合わせに、意外性とおかしみを感じる一方で、超高齢化社会ならあり得る光景と思わせる説得力がある。作者は確か86歳。プールに通っているとしても、女性水着のブランドを見ただけで分かるとは思えない。年回りから考えて、奥様のことを詠んだのではないかと推察している。
(迷 23.07.31.)