AIの伝ふ戦況梅雨寒し 廣田 可升
AIの伝ふ戦況梅雨寒し 廣田 可升
『この一句』
俳句振興のNPO法人である双牛舎主催の俳句大会が6月10日に開かれた。掲句はその時の「梅雨」の兼題句である。選句表で最初に目に留まり、ウクライナで起きている非人間的な戦争の本質を突いた句と心をえぐられた。AI(人工知能)は数年前まで自動翻訳や囲碁将棋のソフトとして知られたが、今や企業活動、教育、医療、娯楽などのあらゆる分野に普及している。NHKではアナウンサーの負担軽減のため、AIがニュースの一部を読み上げている。
戦場も例外ではない。ミサイルや砲弾の命中精度を上げ、無人機をコントロールする。AIに操られた兵器が前線の兵士、罪のない市民を殺傷している。そんなウクライナの戦況を、AIの抑揚に乏しい合成音声が茶の間に伝える。技術の暴走を制御できない人間の愚かさに、心が冷える。
選句表には少し離れて「激戦の地名覚えて梅雨寒し 双歩」の句もあった。読めばたちまちバフムトやマウリポリといった地名が思い浮かぶ。馴染みのなかったウクライナの地名を、世界中の人が知る〝劇場型戦争〟。この句にはテレビで見ているだけの自分を責める思いも感じられる。
ウクライナの悲劇を「梅雨寒し」の季語と取合せた兄弟のような句。俳句大会の投句64句の中の2句だが、どちらも心に響いた。
(迷 23.06.23.)