粉を吹きし羊羹切って新茶かな 須藤 光迷
粉を吹きし羊羹切って新茶かな 須藤 光迷
『合評会から』(酔吟会)
而云 顔見知りがやって来たので余りものの羊羹と新茶を出したのでしょうか。そんな雰囲気のある面白い句です。
水馬 糖尿病患者に言わせると、「粉を吹きし羊羹」なんて、こんな恐ろしいものはありません(笑)。あんな美味しいものはなく、糖尿病患者だってほんとうは食べたい。羨ましいかぎりの句です。
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この句を見て五〇年前が蘇った。1970年代初め、チェコのプラハ特派員になった。ソ連邦の圧政から逃れようとチェコ国民が「自由化宣言」をしたら、ソ連は戦車を乗り入れて武力鎮圧した。いわゆる「プラハの春」事件である。プラハに住んで東欧8カ国をぐるぐる周り、実情を日本に伝える任務を負わされた。仕事はやり甲斐のあるものだったが、食料も衣料も欠乏し困窮した。
そんな時、日本から来た人がおみやげに虎屋の羊羹を二棹くれた。親子三人と助手を務めてくれていた日本人留学生とで一本を押し戴くように食べた。もう一棹は大事にしまっておいた。一年半くらい経って、誰かの誕生日かなにかに引っ張り出して食べた。羊羹は少し痩せて、周りに砂糖の結晶がびっしり着いて、きらきら輝いていた。「どうかな、大丈夫かな」とごりごり切って食べた。結晶部分はしゃりしゃりするが、中身は紫黒色の艶を持ち、全く変質していない。これには感激した。これまた取って置きの古茶がしみじみとした味わいだった。
(水 23.06.13.)