流鏑馬や新樹の杜に響きあり  溝口 戸無広

流鏑馬や新樹の杜に響きあり  溝口 戸無広 『この一句』  五感を巧みに刺激する句である。流鏑馬、新樹の杜と言葉を並べ、緑豊かな神社の杜と疾走する馬体の色、射手の色鮮やかな装束を視覚的にイメージさせる。さらに下五に「響きあり」と据えることで、今度は流鏑馬をめぐる様々な音を聴覚に喚起する。それは馬の駆ける音だったり、矢を射る音や的の割れる音、あるいは観客の歓声かも知れない。読者の記憶にある響きが呼び覚まされる。  流鏑馬は日本古来の弓馬術である。平安時代から武士の鍛錬、あるいは神に捧げる神事として行われ、疾走する馬上から鏑矢(かぶらや)で三つの的を射る。人馬一体となった伝統武術は迫力満点で、今も多くの見物客を集めている。  ネットで調べると流鏑馬は全国百か所近くで行われている。神社の例大祭にあわせたものが大半で、秋の開催が多い。掲句のような新樹の季節の流鏑馬は意外に少なく、関東では日光東照宮、関西では京都下鴨神社で5月に催されるぐらいである。  作者は今年3月まで大阪勤務だったので、下鴨神社の流鏑馬を見る機会があったのではなかろうか。同社には糺(ただす)の森と呼ばれる鬱蒼とした原生林が残されている。この森の緑を背景に繰り広げられる華麗な流鏑馬神事を想像する。視覚、聴覚だけでなく、森を渡ってくる初夏の風が顔をなでる触覚、さらに風が運ぶ新樹の匂いによって嗅覚まで刺激されそうだ。 (迷 23.05.29.)

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