懐も手間も端折って冷奴 山口 斗詩子
懐も手間も端折って冷奴 山口 斗詩子
『合評会から』(番町喜楽会)
水馬 諸物価高騰の折、懐具合にも料理の手間からも冷奴はちょうどいいのでしょう。タイミングがいい句です。
春陽子 値段を「懐」と表したのがいい。今じゃ「懐」なんて言葉は使われない。「端折る」は「かけず」という意味でしょうか。言葉遣いがうまいですね。
光迷 私も頂きました。一丁で二人分はあるし、薬味も手間をかけずに醤油だけという手もある。
水牛 冷奴が大好きな私は、冷奴を馬鹿にするなと言いたい(会場爆笑)。もっと大事にしてほしいなぁ。
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手軽で美味しく、涼味あふれる料理の筆頭は冷奴だろう。この一句は、物みな上がる昨今の世相を背景に、おかしみを伴って纏められている。暑さで疲れたせいかどうかはともかく、「手間も端折って」には、軽い自嘲が混じっているようにも受け取れる。
それはともかく、最近は旨い豆腐が少なくなった。味が乏しく、滋味を感じることが少ないのだ。寄る年波で味覚が衰えたせいかもしれないが…。ただ「工場生産の豆腐は、大豆を搾り切ってしまい、残り滓は飼料にもならない」という話を聞いたおぼえがある。
(光 23.05.21.)