パンプスで急ぐ穀雨の丸の内   金田 青水

パンプスで急ぐ穀雨の丸の内   金田 青水 『この一句』 パンプスとは、甲の部分が広く開いていて、足を滑らせるように履く女性用の靴をさす。つま先の形やヒールの高さで様々なバリエーションがあり、丸の内の女性であれば、職種によって違いが出てきそうだ。秘書や管理職はハイヒールに近いもの、営業職であれば先が丸くかかとの低い動きやすいタイプが多いのではなかろうか。 掲句はパンプスの女性と季語の穀雨を取合せ、オフィス街に働く女性の姿を活写している。穀雨は二十四節気のひとつで、新暦では4月20日頃にあたる時候の季語。穀物を育てる雨がよく降ることから穀雨といわれる。この頃の丸の内には、入社したての初々しい新人が溢れている。真新しいスーツや靴、それに初々しい表情からすぐに分かる。穀雨は春から成長して行く新人を象徴していると読める。 さらに「急ぐ」という言葉から実際に穀雨に遭ったのではないかと推察される。ハイヒールでは走れないので、ここは活動的なパンプスを履いた新入社員が、春の雨に遭って走り出している場面を想像した。穀雨の季語が、時季と雨に二重に効いている 誰もが働く女性が詠んだ句と思ったら、名乗り出たのは傘寿を迎えた作者。意外ななりすましに句座はどよめいた。作者は丸の内にするか大手町にするか迷ったという。大手町が無機質なビジネス街の印象が強いのに対し、丸の内はブランド店が店を構えるなど華やかさも併せ持っている。パンプスの新入社員は丸の内でこそ、より生き生きと輝くのではなかろうか。 (迷 23.0…

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