鋤き畑の穀雨の雨になりにけり 廣上 正市
鋤き畑の穀雨の雨になりにけり 廣上 正市
『この一句』
「穀雨」は二十四節気の一つで、太陽暦では4月20日頃から5月5日頃、つまり春の終わりの半月である。この頃、本州付近は春雨がしとしと降り、これが「百穀を潤す」というので穀雨の季節と名付けられた。イネ籾を蒔くのもこの頃だし、芋(里芋)を植える時期でもある。野菜の種子を蒔くにもうってつけである。
従って農家にとってはいよいよ忙しい時期ということになる。田畑は冬の間から耕し始めているが、そこをもう一度鋤き返し、肥料を入れて、畝を作り、いよいよ種子を蒔いたり、苗床に育てた苗を植える。
この句はそうした時期の畑を詠んで、「さあ、いよいよだ」という期待感を抱かせる。鋤き返した畑に晩春の雨が音も無く降り、養分たっぷりの黒土を光らせている。「準備おさおさ怠り無し」という満足感も伝わって来る。耕し終えた畑を雨が濡らしていますよ、とうたっているだけなのだが、まさに「静穏」という言葉を思い起こさせてくれる。
喧騒の巷で忙しない生活を強いるマスコミ世界に身を置いての数十年間を無事に務め上げ、念願の田舎暮らしを始めてもう10年近くたつか。作者の農村暮らしは今やホンモノになったようである。
(水 23.05.07.)