コロナ禍を乗せて去りゆけ花筏   中野 枕流

コロナ禍を乗せて去りゆけ花筏   中野 枕流 『季のことば』  「花筏」という言葉がいつごろ出来たものなのか知らないが、行く春を惜しむ、実に素晴らしい詩語だと思う。桜は咲き初めの初々しさ、満開の華やかさも勿論素晴らしいが、散り始め、やがてそれが吹雪のようになり、水面をびっしりと覆う景色も美しい。風や水流で水面が揺らぐと、浮かんだ花びらは漂い流れ、大小様々な形の花びらの島ができる。それがゆるやかに流れる様は、「花筏」という形容がぴったりである。それに乗って、春が流れ去ってゆくのだ。  作者はその景色を眺めながら、「コロナを乗せて行っておくれ」と詠んだ。まさに令和5年晩春にふさわしい一句となった。  「コロナ禍」は現実にはまだ続いているのだが、丸三年の防疫体制に国民も政府もうんざり、疲れ果ててしまったのだろう、5月8日を期して普通のインフルエンザと同等の「第五類」の感染症に位置づけるという。あまり大げさに考えずに“フツーの病気”扱いしようということのようで、「マスクははずして結構です」ということになった。コロナウイルスが政府のお達しを素直に聞いてくれれば万々歳だが、そんなに都合よく引っ込んではくれまいという見方もある。  ともあれ、中野枕流さんがこの句を引っさげて日経俳句会四月例会に登場した。活躍を期待しよう。 (水 23.05.04.)

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