大口を真上に開けて春の鯉 植村 方円
大口を真上に開けて春の鯉 植村 方円
『合評会から』(日経俳句会)
水兎 桜の花びらが散っている池でしょう。花の下に人影も増え、それで鯉も出てきちゃう。叙述にない風景まで浮かんでくるいい句だなと思いました。
実千代 池の鯉は餌をあげたり、みんなが見ていたりすると、上を向いて口を開ける。その周りに花がたくさん咲いているという春の情景がいいと思います。
枕流 鯉のパクパク。愛らしいというかすごく飄逸な感じがしました。
朗 餌をねだる様を、大口を真上に開けるというのが上手な言い回しだなと思いました。
迷哲 真上に開けるって、よく見ていますよね。こういう表現はなかなか出てこない。
* * *
作者は自宅近くを流れる神田川で大きな鯉をよく見るのだが、餌の奪い合いなど見るにつけ「鯉はつくづく獰猛だ」と思ったのだそうだ。
私も横浜の三渓園によく麩を持って行くが、餌を持った人間が岸辺によると、どっと集まる。何十尾も押し合いへし合い、大口を真上に開けて立ち上がる。しかし不器用でなかなかくわえられず落っことす。するとキンクロハジロという小さくて小賢しいカモが、さっと寄って来て横取りする。「バカだなあ、もう少し落ち着けよ」とつぶやく。
この句は見たまんまをそのまま詠んだのがいい。青空に向かって鯉が大口開けたということで、あっけらかん、のどかな春の気分がただよう。
(水 23.05.02.)