青空や大阪城は花の陣     溝口 戸無広

青空や大阪城は花の陣     溝口 戸無広 『合評会から』(日経俳句会) 水牛 あっけらかんとして大らかな詠いぶりは、実に気持ちがいい。 而云 花の大阪城は行ったことはないが、頭の中で石垣の中から桜がわーっと膨らんでくるようなことを考えて、いい句だなと思った。 愉里 大阪城の写真のような、パンフレットのような鮮やかな景が浮かんでくる気持ちの良い句。 健史 凄惨をきわめた大阪の陣。今はのどかさと華やかさを享受しています。対比の妙。 芳之 空、城、花の組み合わせがきれいです。            *       *       *  眼前の花の景色を素直に詠んだ佳句と高点を得たが、大阪城の悲運の歴史を重ね合わせると、味わいが深まる句でもある。大阪城は豊臣秀吉が築いた天下の名城。難攻不落と謳われたが、家康の武略の前に落城、豊臣家は滅んだ。城は徹底的に滅却・埋没され、その上に築かれた徳川の大阪城も維新時の大火で焼け、現存するのは石垣と一部の櫓・門だけである。  一帯は戦後に広大な公園として整備され、市民の憩いの場となっている。春には三千本の桜が咲き揃い、花見客でにぎわう。「花の陣」の措辞によって、冬の陣、夏の陣の戦いと豊臣家の命運が想起され、城跡で花見を楽しむ平和な現代との落差が際立つ。  句会では司会の双歩氏が「作者の戸無広さんはこの春に大阪から東京に転勤になったので、置き土産ですね」と披露し、句に花を添える形となった。 (迷 23.05.01.)

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