囀や古い団地の森の中      旙山 芳之

囀や古い団地の森の中      旙山 芳之 『季のことば』  「囀り」とは3、4月、繁殖期に入った野鳥が連れ合いを求めてしきりに鳴き交わす様子を押さえた仲春晩春の季語である。切れ目なくしきりに喋るのだがさっぱり分からない外国人の喋りを「鳥語(ちょうご)」と言うが、実にうまいことを言ったものだなあと感心する。春の鳥もガイジンさんも、なんだかよく分からないことをピーチクパーチク言っている。小鳥たちの鳴き声はなんとなく相手を呼び寄せようというものだなという感じがするし、ガイジンさんのは多分道を聞いているのだろう。返す言葉が出て来なければ「わからないよ」と手でも振っておけばいい。なまじ親切心を発揮して熱心に耳傾けると、とんでもない悪党だったりして、思いもかけない被害に遭ったりする。「観光立国」に舵を切った日本には、これから年間数千万人のガイジンが押し寄せる。中には悪い奴も居る。昔ながらの「お人好し日本人」を通すと危ない。  この句はそういう昔ながらの善良な日本人が静かに住まう、築数十年の古団地。建った頃の若木が今や鬱蒼たる森林になり、野鳥の楽園になっている。住人は老人ばかり。団地内のベンチには朝から夕方までジイサンバアサンが置物のように鎮座している。このベンチは何号棟の何とかジイチャンとなんとかバアチャンというように、もう「定座」が出来ている。小鳥たちの囀りを子守唄にして、こっくりこっくり。時々うつつに戻り互いに二言三言。受け答えは定かではないが、それはもうどうでも良くなっている。今や大都市…

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