酒気帯びし父の土産や桜餅 山口 斗詩子
酒気帯びし父の土産や桜餅 山口 斗詩子
『この一句』
なんだか可笑しさを感じさせる句である。そもそも、お酒を飲んだ帰りに、桜餅を土産に買って帰るというのがなんだか可笑しい。寿司の折詰でも焼き鳥盛合せでもなく、ショートケーキでもなく、桜餅を土産に持ち帰るということがなんとも微笑ましい。奥様の好物だろうか、子供たちが好きなのだろうか、それとも、このお父さん自身がお酒と甘いものの両刀使いの人なのだろうか。いろいろなことを想像させる。
桜餅には、関東風の長命寺と、関西風の道明寺の二つの種類がある。大阪生まれの筆者は、桜餅発祥の地が向島の長命寺だということを長く知らず、道明寺こそ本物の桜餅だと思い込んでいた。というか、道明寺という呼び方そのものを長らく知らなかった。阪神タイガースの新監督ではないが、桜餅といえば「あれ」しかなかった。
句会では、この句に詠まれた父とは誰のことだろうと話題になったが、作者が欠席されていて判明しなかった。亡くなられたご主人はお酒を飲まれなかった方なので、この父は、文字通り、作者のお父上のことだろうという話になった。亡くなられたご主人なら、大阪生まれの方なので、桜餅は道明寺に違いないように思うが、実のお父上の場合、どちらを土産にされたのか気になった。いずれにせよ、ほろ酔い機嫌で、桜餅をぶら下げて家路を急ぐお父さんは、きっと、家族思いのいいお父さんに違いない。
(可 23.04.21.)