春キャベツ耳たぶのよな餃子茹で 中嶋 阿猿
春キャベツ耳たぶのよな餃子茹で 中嶋 阿猿
『季のことば』
「春キャベツ」は年中あるキャベツと違い、頭頂がやや尖ったラグビーボールのような、ふんわり柔らかい葉が特徴の春野菜の一つだ。秋に種を蒔き春に収穫するので春キャベツと呼ばれているが、そもそも品種が違うそうだ。通常の「キャベツ」は夏の季語で、「甘藍(かんらん)」とか「玉菜(たまな)」とも言う。タマネギやジャガイモと同様年中ある野菜だが、「春キャベツ」となれば別格で、いかにも春らしい存在感がある。
キャベツが日本で栽培されるようになったのは明治の初めというから、芭蕉も蕪村も一茶も食していない。ましてや「春キャベツ」、別名「玉巻く甘藍」は、歳時記にもほとんど載っていない新しい季語だ。
掲句は、その柔らかな春キャベツを餃子の具材にしたという。しかも茹餃子だ。筆者は普段、焼餃子を食べる機会が多いので、たまに茹餃子に出会うと、とても懐かしく感じる。というのも実家では、親が北京に駐在していた時に覚えたのか、大きめの餃子をいつも茹でていたので、子供のころは茹餃子しか知らなかった。
さて、ある日の作者の夕餉。春キャベツという旬の食材と、ちょっと捻った調理法とで、特別な餃子が食卓を飾った。茹で上がったつるりとした形は、耳たぶを連想させてユーモラス。今夜はスパークリングワインでも開けようか。
(双 23.04.18.)