陽炎や斜面を滑る段ボール 田中 白山
陽炎や斜面を滑る段ボール 田中 白山
『季のことば』
陽炎は陽射しで暖められた空気が地面から立ちのぼり、向こうの景色が揺らいで見える現象をいう。夏にも見られるが「春のうららかな陽気に合うことから春の季語とされる」(角川大歳時記)。
掲句はその陽炎に、段ボールで斜面を滑っている光景を配する。陽炎の見える斜面と言えば、真っ先に荒川などの土手が思い浮かぶ。小高い丘やスキー場も考えられる。春深む頃、草の生えそろった土手で、子供たちが段ボールを尻に敷いて滑り降りている景と読んだ。陽炎の土手で遊ぶ子供の姿はまさに春爛漫の気分に満ちており、フーテンの寅さんでも通りかかりそうである。
昭和の時代は近所でよく目にした光景だが、最近は草スキー用のプラスチックのボードが千円前後で売られており、段ボールで遊んでいる子供など見たことがない。段ボール工業会のサイトによると、日本に段ボールが本格的に普及したのは昭和30年(1955)以降という。農産物の輸送を中心に木箱から段ボールへの切り替えが進み、高度成長期には家電製品や食料品など身の回りのものは何でも段ボール箱で運ばれるようになった。
その頃はプラスチック製の遊具や金属製のおもちゃは高価で、身近にあふれる段ボールは子供たちの格好の遊び道具だった。草スキーだけでなく、剣やヨロイにしたり、秘密基地を作ったり、段ボールで遊んだ記憶をお持ちの方は多いのではなかろうか。ノスタルジー溢れる句と思ったが、句会では点が入らなかった。「斜面」のイメージが掴みにく…