残り香のしばらく指に桜餅 嵐田 双歩
残り香のしばらく指に桜餅 嵐田 双歩
『合評会から』(番町喜楽会)
青水 「桜餅」の季語が生きていていいなと思いました。桜餅と言えばまず香りだと思っているのでいただきました。
幻水 桜餅は香りと色が特徴。色を詠むのはそんなに難しくないように思うのですが、香りを詠むのは難しい。この句はそれをうまく詠んだなと思いました。
二堂 買ってきたものか貰い物か、すぐにつまんで頬張ったのでしょう。美味そうです。
水兎 食べた後にちょっと鼻の下を擦ったのでしょうか。惜春の情も感じます。
* * *
八代将軍徳川吉宗は開明的で、江戸町民のリクリエーション策として、あちこちに遊楽の場所をこしらえた。上野や隅田川べり、品川御殿山、王子飛鳥山などに桜の木を植えさせ、蛍の飛び交う流れなどを作らせた。18世紀初頭に庶民の遊楽に思いを致した君主は世界史的にも珍しい。
その隅田川堤長命寺の門前で目端の利く男が水に溶いた小麦粉を薄焼きにして小豆餡をくるみ、土手の桜の葉に包んで売り出したのが大当たりした。いとも素朴簡便なものなのだが、今や葉はどこそこのオオシマザクラを一年塩漬けにしたとか、小豆は北海道のなにがしと小うるさい。皆押し戴くようにして買っている。確かに葉の香りがいい。つまんで食べた後も残り香を楽しんでいる。
(水 23.04.10.)