入彼岸こゑ聞くだけと電話来る 玉田春陽子
入彼岸こゑ聞くだけと電話来る 玉田春陽子
『この一句』
電話は俳句の素材としては格好のものではないかと思う。電話には話す相手があり、用件がある。俳句は十七音しかないから、相手が誰で、用件は何とつぶさに説明することはできない。ほとんどが読み手の想像にまかせられ、俳句としての含みの効果が生まれる。
彼岸の入りに、声を聞くだけと言ってかかって来た電話なので、都会に出て行った息子に、親が心配してかける電話を想像した。さだまさしに「案山子」という歌がある。一番の歌詞は〈元気でいるか/街には慣れたか/友達出来たか/寂しかないか/お金はあるか/今度いつ帰る〉である。季節も、シチュエーションも異なるが、掲句にはこの歌と通底するものがあるような気がした。
この電話はやはり固定電話だろう。携帯電話や、スマホでも意味は通用するのだが、やはり絵柄としては固定電話、なかんずく黒電話を思い浮かべてしまう。スマホの場合だと、昨今は、音声通話ではなく、文書メッセージのやりとりに使われることが多く、このような場面は想像しにくいように思う。
この句は、「こゑ聞くだけと」の中七が効いていて、こんな表現を思いつく作者はつくづく上手だなと感心させられる。ただ、「こゑ」などと表記せず、「声」で良いのではないかという意見が出た。そこは同感である。
(可 23.04.02.)