囀や窓を五センチ開けた朝    篠田  朗

囀や窓を五センチ開けた朝    篠田  朗 『この一句』  日経俳句会3月例会で最高点を得た句だが、窓を開けた幅をめぐって句会で議論を呼んだ句でもある。肯定的な意見は「五センチが微妙でいい。開けると朝の囀りが聞こえて来る」(実千代)とか「五センチ開けた窓で聴く囀り。感覚を刺激する情景の切り取り方」など、その幅にリアリティーを感じて点を入れた人が多かった。 これに対し、五センチと限定したことで「何となく嘘っぽい」(三薬)、「何センチであろうと窓を開けたら囀りを止めて飛んで行ってしまう」(水牛)との反論もあった。  囀とは春になって繁殖期を迎えた小鳥たちの鳴き声をいう。求愛や縄張りのアピールとされ、囀が聞こえると春らしい気分が野や庭に溢れてくる。いろんな種類の鳥がにぎやかに囀ることを意味する百千鳥という季語もある。  掲句を読んだ時に、作者は窓を開けたてから囀を聞いたのか、囀を聞いたので窓を開けたのか、どちらだろうと考えた。起き抜けに何げなく窓を開けたのなら、五センチよりもっと大きく開けるだろうし、水牛氏が指摘するように鳥たちは逃げてしまう。とすると寝覚めの頃に囀が聞こえ、どんな鳥が鳴いているのか、そっと窓を開けたのではないか。小鳥を驚かさないよう、でも鳥の姿が見えるように開けた幅が五センチと考えると納得がいく。「五センチが作者の優しい心遣いを表している」(明生)との句評もあった。作者の弁によれば、鳥が逃げないように窓をそっと開けたという。囀っていたのは何の鳥だろう。鶯か目白か、ある…

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