ぽつねんとひいな飾りの前に座す 山口斗詩子
ぽつねんとひいな飾りの前に座す 山口斗詩子
『合評会から』(番町喜楽会)
双歩 切ない句ですね。どういうことなんだろうとも思いますが、雛祭りの華やかさがない、ちょっとさみしいこんな句もいいのではないだろうかと頂きました。
百子 「白酒を飲み交わした子今何処」の句と作者は同じではないですか?娘が成人してもう家には居ない。かつては娘と祝ったお雛祭りなのに、今は一人でお雛様を飾る。そんな感じではないでしょうか。母親の切なさが伝わります。
てる夫 「ぽつねんと」をどう解釈するかですね。娘のために婆が一人でお雛さまを飾った。そして雛飾りの前に座り込んで、娘の帰りを待っているのかな。いろいろな事を思い出しているのかな。
* * *
筆者も今年、お雛様を飾った。子は巣立ったが、座敷が春らしく華やぐのがいい。ところで、常々思っているのだが、雛人形を見ていると華やかさの反面、憂いを秘めているような気がする。端午の節句の兜や武者人形のように、あくまでも勇ましく溌剌としているのとは対象的だ。
そのやや憂いを秘めた「ひいな飾り」を前に、作者は「ぽつねんと」座しているという。「ぽつねん」は「ひとりだけで寂しそうに居るさま(広辞苑)」という。一体作者はどういう状況下なのだろうか。百子さんの推察通り、「白酒を飲み交わした子今何処」は同じ作者だった。娘が遠方に嫁ぎ、めったに会えないことを嘆いているのだろうか。かつては家族揃っての華やかな雛の間だったのが、今や一…