春風を懐に入れ龍馬像 中村 迷哲
春風を懐に入れ龍馬像 中村 迷哲
『この一句』
高知桂浜にある、右手を懐に差し入れた坂本龍馬の像を詠んだ句である。手を懐に差し入れている理由についてはさまざまな俗説があるようだ。いわく、ピストルを隠し持っている。懐中時計を触っている。傷を隠すために懐手をしている。なかには、ナポレオンの真似をしている、という珍説もある。作者は、その懐に春風を入れて膨らませ、一句に仕立てあげた。
この句のお手柄は、なんといっても、「春風」に「龍馬像」を取合せたことにある。幕末史の中で、あるいは、日本史の中でといってもいいかもしれないが、坂本龍馬ほど春風が似合うキャラクターはそう見当たらない。上野の西郷さんも幕末の傑物であるが、春風にはあまり似合いそうにない。
龍馬その人もさることながら、高知というお国柄もまた春風に似合うような気がする。筆者は、仕事や遊びで、たびたび高知を訪れたことがあるが、行くたびに高知の人々の豪放かつ開放的な雰囲気に接した。あの『よさこい節』の、「言うたちいかんちゃ、おらんくの池にゃ、潮吹く魚が泳ぎよる」という歌詞そのままの気風である。
著者によれば、春風といえば東風、東風といえば太平洋という連想から、桂浜にある龍馬像に思いが至ったようだ。とても清々しく覚えやすい、口ずさみたくなる一句である。
(可 23.03.15.)