浜風にちぎれ飛ぶ火やどんど焼き 大下 明古
浜風にちぎれ飛ぶ火やどんど焼き 大下 明古
『合評会から』(日経俳句会)
三代 どんど焼きは見たことがなく、調べると海の近くでやることが多い。浜辺で炎がわーっと舞い上がって飛んで行くさまが目に見えるなと。
てる夫 余計なことを言うと、長野の山国でも左義長は色んな所で盛んにやっています。
水馬 大磯でしょうか。迫力のある浜辺でのどんど焼きが目に浮かびます。
芳之 「ちぎれ飛ぶ」の表現に勢いがあります。
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徒然草にも記述がある左義長は元来宮中の小正月行事。連綿と現代に受け継がれ、いまは地方により名が異なるがどんど焼きと呼ぶのが一般的だ。歴史好きなら、織田信長が左義長に名を借りて天下に示威した陣揃えを思い起こすだろうか。神奈川在住の人によれば、大磯の北浜海岸の左義長がことに規模も大きく盛んだと言う。暗くなるころ、竹や松と正月飾りで盛り上げた何基もの「さいと」に火を付け、その炎に一年の無病息災を祈るということだ。また終わった後の熾火で焼く餅や芋は子供たちの楽しみ。
掲句はたしかに左義長・どんど焼きの光景だ。大きな炎が呼び起こした風にちぎれて飛ぶというところは壮観だが、いっぽう一種の怖さもあると思う。こういう伝統行事ができるのも浜辺ならではのこと。作者が実際に見たに違いない迫力がある。炎が時には「ちぎれ飛ぶ」さまを見落とさなかったのがこの句の命と思う。
(葉 23.02.02.)