吊るされてコートの肘に曲り癖 玉田春陽子
吊るされてコートの肘に曲り癖 玉田春陽子
『合評会から』(番町喜楽会)
青水 「曲り癖」がいいですね。非常に洒落ているいい句です。
愉里 日常、普通に曲り癖を直すようなこともするのですが、こういう風に改めて句に詠まれるとなるほどなあと思う、そんな句です。
双歩 癖がつきやすいコートと、そうでないコートがあるのですが、居酒屋で目にした光景を詠んだ句でしょうか。いいところに目を付けました。
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実によく見ているなあと感心した。ただぼやーっと眺めていたのでは中々こうはいかない。この人は「ちょっと違うな」という所を素早く見て取るのだ。それが俳句になる。作者は「久しぶりに飲屋へ行ってハンガーにかかったコートを見て、あっこれは俳句に使えると思いました」と言う。これぞ俳句巧者の言である。
壁に吊り下げられたコートなど普通は「見れども見えず」である。ところがそれをさーっと眺めて、目の端に何か気になるものが入ると、そこに改めて視点を据えるのだろう。一着だけ、ぶる下がったコートの右袖が曲がったままになっている。なんでかな、と思う。持ち主の着癖というのか、姿勢からか、布地のせいなのか、とにかく、肘のところで曲がったままになっている。「こんなこともあるんだなあ」と早速、句帳に書留める。
(水 23.02.28.)