松過ぎのたこ焼き奉行立通し   谷川 水馬

松過ぎのたこ焼き奉行立通し   谷川 水馬 『この一句』  正月も四日を過ぎるとおせち料理に飽きてきて、カレーやラーメンが食べたくなる。この家では、カレーでも、ラーメンでもなく、松過ぎにたこ焼きパーティをしたようだ。  たこ焼き奉行が「立通し」と言うのだから、よほど沢山作ったのだろうが、果たして関東にそんなにもたこ焼きに入れ込む家があるのかと訝った。作者の名前を聞いて合点が行った。ご本人は鹿児島県の生まれだが、令夫人は和歌山新宮生まれの、大阪と兵庫川西の育ち。旦那によれば、手に「銀の匙」ならぬ「たこ焼き用の千枚通し」を持って生まれて来た、たこ焼き名人らしい。  筆者は常々たこ焼きを焼くコツは、溶いた粉を溢れるほど入れることと、立って焼くことだと思っている。前者は、粉の量をけちると、返した時に裏側がきれいな丸にならず、壊れた宇宙船のような形なってしまうから。後者は、立って焼くと、千枚通しが斜め上からたこ焼きに刺さり、うまく回せるから。それでなくとも、一度に二十個くらい焼けるたこ焼き器、悠長に坐って焼けるような生半可な代物ではない。この句の「立通し」こそ名人の証ではないだろうか。立通しで焼いてどんなに疲れても、孫の「バァバ、美味しいよ」の一言で癒されるのに違いない。名人の焼くたこ焼きを一度よばれたいもんである。 (可 23.01.30.)

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