シャッターを肩で押し上げ初仕事 玉田春陽子
シャッターを肩で押し上げ初仕事 玉田春陽子
『この一句』
作者には好んで詠む題材がいくつかある。どんなテーマでも詠み方が巧みなので、いつも高点を攫っている。代表的なのは色や形を詠んだ作品だ。「ストローをのぼる空色夏来る」は、昨年度の日経俳句会の最優秀賞に輝いた。デザイナーである作者の本領発揮、実に鮮やかな切り取り方だ。「冬めくや駅に手作り小座布団」などに見られるように、小道具をあしらうのもとても上手い。
掲句はもう一つの得意分野。職人などの働く人の仕草に着目した作品だ。過去には「野分晴れひたと墨打つ宮大工」、「電気工一人花見の灯を点す」、「婦長にも私服の日あり赤セーター」など、どの句の登場人物も息づかいが聞こえるほどの存在感がある。
小さな町工場か何か、電動ではなく手で押し上げるタイプのシャッターを開ける仕草をスケッチした作品だ。作業着を着ているかもしれない。地面から手で少し持ち上げ、しゃがんで肩を入れそのまま立ち上がって、両手を上げて最後まで押し上げる。そんな一連の動作を目撃しているような錯覚に陥る。ガラガラという音まで聞こえてきそうだ。
毎朝繰り返す、極めて日常的な動作。年が改まり、そんな日常がまた始まった、という雰囲気を季語「初仕事」がしっかり受け止め、読者にある種爽やかな親近感を抱かせる。「うまいなあ」と感心するしかない。
(双 23.01.27.)