涅槃像横たふ枯野阿蘇五岳    中嶋 阿猿

涅槃像横たふ枯野阿蘇五岳    中嶋 阿猿 『おかめはちもく』  冬場に枯野となった阿蘇の草千里。目を上げれば中岳をはじめ五岳がくっきりと浮かび、巨大な涅槃像が横たわっているように見える。枯野の広がりと遠景の山々の雄大さを詠んだ、いわゆる構えの大きな句に見える。  阿蘇五岳はカルデラの中心にそびえる連山で、高岳、中岳、根子岳、烏帽子岳、杵島岳から成る。北側の外輪山から望むと、根子岳を顔にして、残る四岳が胸、腰、足と連なり涅槃像のようだ。地元の人々や観光客にはよく知られており、初夏の水田の水鏡に映った姿や冬の雲海に浮かぶ像の写真が観光案内のページを飾っている。  枯野の大景を詠んだ句として点を集めると思ったが、意外に伸びなかった。現地に行ったり、写真で見た経験があれば情景が浮かぶが、そうでない人は涅槃像と阿蘇五岳が結びつかなかったのであろう。あるいは涅槃像は寝釈迦や涅槃会とともに春の季語であり、枯野との取り合わせに違和感を持った人もいたのではないか。 そこで涅槃像の印象を弱めるため、阿蘇五岳と入れ替えてはどうだろう。「阿蘇五岳枯野に浮かぶ涅槃像」とか「阿蘇五岳枯野に拝む涅槃像」など考えてみた。枯野が季語として立ち上がって来るのではなかろうか。 (迷 23.01.13.)

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