鬼柚子の獅子とも見ゆる湯舟かな 谷川 水馬
鬼柚子の獅子とも見ゆる湯舟かな 谷川 水馬
『季のことば』
柚子湯は冬至の習いで、新年十日過ぎに取り上げるのはちょっと時期を逸した感があるが、気持ちの良い句である。柑橘類は多種多様であって、世界中の人々が好み、さまざまに利用する。果実を食べるもの、汁液をもてはやすもののほか、形の大小や皮質の違いで分かれるだろう。
みかん、オレンジ、レモンの艶やかな肌に対し、柚子のゴツゴツした肌は異質である。柚子は香辛料、調味料として日本料理に欠かせないものと思える。筆者も柚子好きだ。柚子胡椒は柚子でなくてはならないし、澄まし汁に一片、二片入れればあら不思議、高級料亭の味に変わる。
というわけで、掲句に惹かれて柚子とは何ぞやと調べてみた。原産地は西域や揚子江流域らしく平安初期に日本に伝わったという。酸っぱいから「柚の酸(ゆのす)→柚子」となったとある。掲句の鬼柚子は獅子柚子ともいい、ザボンの仲間になるらしい。名前の通りゴツゴツとした形状で、鬼とも獅子とも呼ばれるようになったのだろう。
作者は冬至の晩、この鬼柚子を風呂に浮かべ邪気払いとしたのだ。湯にたっぷり浸かりながらしみじみ鬼柚子を見れば、言われるように獅子頭にも見えることよと思った。冬至の湯舟の穏やかさがうかがえるような句で、読む者がほっこりする一句である。
(葉 23.01.12.)