冬帽子掛けていつものカウンター 廣田 可升
冬帽子掛けていつものカウンター 廣田 可升
『この一句』
バーのカウンターで飲む酒は、居酒屋のそれとは随分趣が異なる。一人で入ってバーテンダーと言葉を交わしながらちびちびやるも良し、気が置けない友と静かに杯を交わすのも悪くない。若いころは、カウンターに留まってバーボンなんぞ注文して粋がっていたこともあった。さすがに最近はそんな機会は少なくなって、せいぜいが赤提灯のカウンター席で熱燗を舐めるくらいだが。
掲句の作者は、馴染みの店があるようだ。どんな形態の店だろう。カウンター席のほかにボックス席があるような飲み屋だろうか。常連の作者には定まった席があるのかもしれない。椅子に座ると、店のマスターか女将さんから「今日は何かいいことあった?」などと、声をかけられたりして。しかし、帽子掛けがあるような店はやはり洋風なのか。いろいろと想像が膨らむ。
俳句は一瞬を捉えることが多いが、この句の場合は時間の経過が感じられる。店に入ってコートと帽子をコートスタンドに掛け、おもむろにカウンターの空いている席に着く。その数十秒の動きを垣間見ている気がする。「いつもの」が効いて、作者と店の関係性が浮かび上がり、物語が始まる。呑兵衛の句にはつい共感してしまう。
(双 22.12.23.)