大雪や湯治場に満つ津軽弁    中村 迷哲

大雪や湯治場に満つ津軽弁    中村 迷哲 『季のことば』  「大雪(たいせつ)」は詠むに難しい季語の一つと思う。「秋の日」「冬の日」と同様にその日差しをいうのと、その一日のことである場合があり、季語として二通りの意味を持つ。「大雪」は節季時候のことでもあり、文字通り「おおゆき」をも意味する。詠まれた句からどちらと判断するのだが、判断に迷うことが少なくない。筆者は掲句を「おおゆき」と取ったほうがしっくりくると思った。雪に降り込められた湯治場の客を思ったのである。だが主宰からこれは「たいせつ」の句ですと言われて、そうかと思い直したことである。  稲の刈り入れが終わった農家が、一年の疲れを癒す湯治に行く風習はいまも健在かと思う。なかでも農家を継いだ若夫婦が、老親を労い温泉に送り出す例が多いと思いたい。日本各地だいたい温泉を抱えるから、農閑期には名湯秘湯がこのような湯治客であふれることになる。津軽弁が聞ける青森の温泉と言えば、大雪で名高い酸ヶ湯温泉が脳裏に浮かぶ。雪の津軽と湯治宿はよく似合う。この句の「津軽弁」が気に入ったとの句評が多く、それを示している。「どさ?(どこへ行くの)」「ゆさ!(湯屋に行くのよ)」と、近所同士が路上で会話する津軽弁は有名だ。地吹雪の津軽では言葉を極端に縮めて話すとのことだ。満員の湯宿では食事処でも湯舟でも、他県人には理解し難い津軽弁が行き交っているのだろう。季語にぴったり合う舞台を持ってきた句である。 (葉 22.12.21.)

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