いやですねえ冬帽目深黒マスク  大澤 水牛

いやですねえ冬帽目深黒マスク  大澤 水牛 『この一句』  冒頭の「いやですねえ」が何んとも言えずいい。目深な「冬帽」と「黒マスク」姿を見ての心情が素直に吐露され、共感できる。だが、十七人参加の句会で、この句を採ったのは小生だけだった。なぜなのか。「俳句というより川柳」と受け取られたのか。それともマスクを手放せなくなった己の心をズバリ射抜かれ、それに反発してのことか。  俳句は自然や心象をテーマとして季語や切れ字があり文語体、川柳は世相や人事を面白おかしく風刺して口語体、などとされる。しかし、この句には「冬帽子」と「マスク」と季語は二つも入っている。また切れ字がなく、口語体の句は山ほどある。「毎年よ彼岸の入りに寒いのは」という子規の、母親の言葉を拾ったとされる句が好例だろう。  「冬帽目深黒マスク」という、ぶっきら棒な表現が嫌われたとも思われるが、やはり日本人のコロナへの異常とも思える警戒心のおかしさを指摘されたことへの反発が大きいのか。ちなみに句会はワールドカップのさなかに開催され、競技場の観客席にマスク姿は見えなかったが、日本の街中はマスク姿で溢れていた。花鳥諷詠もいいけれど、諧謔味のある時事句がもっと増えてほしいと思う。 (光 22.12.16.)

続きを読む