行く秋や旅の枕を当て直す 金田 青水
行く秋や旅の枕を当て直す 金田 青水
『この一句』
「旅の枕を当て直す」とは、何んとも巧みな情感にあふれた措辞である。秋の夜も更けたころ、布団の中で天井を見、枕に手をやっている姿が思われる。寝入れないのか、それとも夜中にふと目を覚まし、寝付けなくなってしまったのか。
原因は昼間の紅葉狩りなど行楽の楽しさが蘇ってのことか、松茸をはじめとする秋の味覚が舌に…なのか、あるいは明日アウトレットで手に入れようとしているブランド物のバッグなどを考えてのことか。いずれにせよ軽い興奮に襲われ、身は横たえたもののという状況が想像される。
十月というか中秋以降、世の中が急に賑やかになった。コロナウイルス蔓延に歯止めがかかり、「旅に出よう」のゴーツーキャンペーン再開が大きいと思われる。右見て左見ての同調圧力が大好きな人々が、堰を切ったように動き出した。年老いた親の顔を見に里帰りという親孝行や会食の禁を解き同窓会を開いた向きもある。
ところでこの一句、上五が「行く秋」だとしみじみとした感が深いが、「行く春」に置き換えるとどうなるか。夏を前にした、わくわく感に変わるのか。一文字の違いを考えてみよう。
(光 22.11.23.)