黄落や踏んだ踏まぬの通学路 伊藤 健史
黄落や踏んだ踏まぬの通学路 伊藤 健史
『合評会から』(日経俳句会)
三薬 踏んだのが葉っぱなのか、あるいは「お前、俺の足踏んだろう」というのか。どちらにしても子供の会話が聞こえてきそうだ。
方円 落ちた葉を踏んだ踏まないと、遊びながら学校へ行き帰りする状況ではないかと思う。
三代 黄落とはたぶんイチョウで、一緒に銀杏が落ちてたんじゃないかと思うんですね。
阿猿 落ち葉などおかまいなしの子供らの小競り合い。穏やかな秋の光景です。
百子 昔登校するときに道いっぱいに広がった黄落を踏みつけるのが楽しみでした。
* * *
読めば情景が浮かび、にぎやかな声が聞こえてきそうな、ほのぼのとした味わいの句である。十月の日経俳句会で「黄落」の兼題句では最高点を得た。句会では何を踏んだのかが話題となり、銀杏ではないかとういう三代さんの意見に賛同する人が多かった。
作者は京都在住なのでメールで問い合わせてみた。すると家の近くの通学路に銀杏が山ほど落ちて匂っていたので、「子供たちが踏んだら臭い臭いと大騒ぎしたのでは」と発想して詠んだという。俳句はわずか十七音。句が詠まれた状況を全部は盛り込めない。踏まれたものは分からなくても、黄落の通学路に元気な声を響かせたこの句からは、子供たちへの優しい視線と詩情が十分に伝わってくる。
(迷 22.11.09.)