母港へとくぐる海橋朝の月 河村 有弘
母港へとくぐる海橋朝の月 河村 有弘
『合評会から』(三四郎句会)
進 船が例えば瀬戸大橋をくぐり抜け、船員は朝の月を眺める。さぞや爽快だろう。
信 遠洋の旅から数カ月ぶりに日本へ、という状況を想像する。船員たちの心の高ぶりが感じられる句だ。
豊生 大漁に胸張る夫。安否を気遣う妻子。それぞれを照らす名月。雄渾な一幅と言いたい。
尚弘 朝の月が句を引き立てていますね。
雅博 私の生まれ故郷、関門大橋の光景を思い浮かべました。
* * *
遠洋の航路から帰港の大きな船、大漁の漁船、そして瀬戸大橋、関門大橋――。選ぶ側が心に描く対象はそれぞれに異なっていながら、どれもが納得できる情景となる。俳句と言う小さな文芸の持つ不思議な力と言えるだろう。さらにこの海橋の長さや壮大さによって、長い航海、乗組員の努力、苦闘、母国へ帰還の喜びなどが、浮かび上がってくる。
句会後、作者から句の風景を見た場所を聞いた。「横浜にある住居(マンション)の窓から、横浜港がよく見えます」とのこと。朝月の残る横浜港。なるほど、と思う。
(恂 22.11.07.)