名月を眺め重ねし白寿かな 田村 豊生
名月を眺め重ねし白寿かな 田村 豊生
『この一句』
「いいね」と思い、「あの人の句かな」と見当をつけてから、待てよ、と考えた。作者は句会の最高齢だが、九十歳の少し手前のはず。白寿(九十九歳)はまだ先のことだ。しかし俳句は全て自身を詠んでいるとは限らず、父母や知人を詠んだとしても通用するはずだ。選句の終了後、掲句はやはり最初に見当をつけた「あの人」の作と判明する。
作者はほどなく到来するご自身の「卆寿(九十歳の祝い)」をうっかり「白寿(九十九歳)と書いてしまったらしい。続いて、ここに至るまでの経過を説明した。誤りに気付いた作者は「(句会の編集担当者に)この句を削除して頂きたい」と申し入れていたのだ。しかし選句表はすでに印刷済み、インターネットなど通じ、会員への配布も終えていた。「仕方なく、そのままにしたのだが・・・」。その結果、掲句は今句会の最高点獲得、となる。
もし「白寿」ではなく、「卆寿」と直したどうだったか。「白」と「卆」との文字の魅力度を勘案すれば、句会での最高点は無理だったのではないか。では卒寿間近の作者は、他人の「白寿」を詠むべきか。いや、違う、と私は思う。この後は健康に留意し、体調を整え、白寿を待って句会に出すべきだ。作者の元気さからすれば、その可能性は十分である。
(恂 22.10.31.)