十月をあれこれ詰めて二段重   向井 愉里

十月をあれこれ詰めて二段重   向井 愉里 『この一句』  秋は過ごしやすく、万物の生気満ちる季節である。人も活動的になり、自然の恵みを享受する。実りの秋、収穫の秋、行楽の秋、スポーツの秋といった言葉にその特質が良く表れている。作者は秋真っ盛りの十月の朝、二段重ねの重箱に料理を詰めている。「あれこれ」の言葉から、旬の食材や家族の好物を吟味している姿が浮かび、心の弾みまで伝わってくる。重箱に詰められた料理は何だろうと想像が膨らむ。  秋の味覚と言えば秋刀魚や松茸、栗、果物が思い浮かぶ。秋刀魚はあまり重箱に入れないが、秋鮭や鯖の塩焼き、椎茸と人参・蓮根の煮物、梨や柿などは詰める。新米のおにぎりや栗ご飯もある。句会では「十月は肉も魚も美味しくなる」との声もあった。定番の唐揚げや卵焼きも並んでいたかも知れない。  重箱弁当を用意する秋のイベントも「あれこれ」考えられる。運動会やピクニック、遊園地のほか、優雅な紅葉狩りもある。句会での作者の弁によれば、子供さんの運動会に手近にある食材をいろいろ詰め込んだ思い出を詠んだという。秋の行楽で重箱を広げた時の喜びは、子供心に刻まれている。二段重で十月らしい情景を鮮やかに切り取った掲句は、読者の記憶も「あれこれ」呼び覚ましたに違いない。 (迷 22.10.30.)

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