十月や空へと続く千枚田 溝口 戸無広
十月や空へと続く千枚田 溝口 戸無広
『合評会から』(日経俳句会)
鷹洋 熊野古道に行った時のことを思い出しました。馬越峠を登りきるといきなり空が広がっていてすごい。感動しました。その思い出がこの句につながりました。
明生 十月の青空に溶け込んでいる情景が鮮やかに浮かんできます。ただ北陸地方の千枚田を詠んだのなら、空が良いのか、海が良いのか迷うところです。
芳之 下から見上げる視線は雄大で新鮮です。
十三妹 人間のたゆまぬ努力。その壮大なスケール感が心を打ちます。
定利 中七の「空へと」がいい。
迷哲 季語が動くような感じがしたんですよね。初夏の空でも合わないことはない。
* * *
私は句会の合評会で「十月には刈り取りが済んで、田んぼには稲が無くなっちゃってるんじゃないか」などとつぶやいた。しかし、これは関東に住み、関東から東北の米どころを見ての感想で、後でよく考えてずいぶんいい加減なことを言ってしまったと恥ずかしくなった。寒さの来るのが早い北国では稲刈りはずいぶん早く9月に行うところが多いが、南の地方は十月に入ってからも盛んにやっている。
平地の少ない日本列島。田や畑は山をどんどん上って行く。「耕して天に至る」である。この句は下から千枚田を仰ぎ、さらにその上の真っ青な十月空を仰いでいる。思わず深呼吸したくなるようだ。
(水 22.10.24.)