慕われてこその国葬そぞろ寒   杉山 三薬

慕われてこその国葬そぞろ寒   杉山 三薬 『この一句』  2022年9月、日本と英国で相次いで「国葬」が執り行われた。世界中から人気のエリザベス女王と、「なんであの人が国葬」と国民の7割方が首を傾げる中で強行された安倍元首相。  この句は日本の変な国葬を「そぞろ寒」の季語で詠んだ句だが、「慕われてこその国葬」でエリザベス女王の国葬にも思いを馳せる、とても上手い詠み方をしている。句会ではあまり点が入らなかったが、「慕われてこその」という叙述が少々理屈っぽく感じられるせいであろうか。しかし、令和4年9月に奇しくも重なった、あまりにも懸隔甚だしい国葬を詠んだ時事句として、改めて記憶に留める句だと思い、ここに取り上げた。  「国葬」を広辞苑で引くと、「国家の大典として国費で行う葬儀」とある。大典とは重要な儀式。つまり、日本国にとって掛け替えのない人物を葬送する儀式ということになる。アベシンゾーという人が果たしてそういう人物であったかどうか。国民の大多数は「否」と答えるだろう。岸田首相は国葬を決めた理由を理路整然と説明することが出来ないまま、ただ「日本の憲政史上最長期間、総理大臣の座にあった」ことを述べたに過ぎない。たまたま取って代わる対抗馬が居なかったが故に長期間首相の椅子に座っていただけなのに、それを国葬の唯一の理由にせざるを得ないのが、まさに「そぞろ寒」ではないか。  そういった国民大多数のもやもやを、この句はすいと詠んでいる。 (水 22.10.17.)

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