金婚や何事もなく竹の春 植村 方円
金婚や何事もなく竹の春 植村 方円
『季のことば』
選句表を見て「この句を選ぼう」と最初に決めた。私もこの春、金婚だった。その夜は家内と二人だけの夕食に息子二人が来てくれただけのこと。お祝いなどは不要である。ともかくここまで無事に、と自らを褒めることで十分なのだ。半世紀越えて来て、の感慨はあるものの、無事に歩み続け、夫婦がともに、とりあえず健康であれば、言うことはない。
この句は更に「竹の春」という季語によって厚みを増した。竹の落葉期が「春」であることは春の季語「竹の秋」によって知られ、それと対照的なのが秋の季語「竹の春」なのだ。この季節の竹は、周囲の紅葉、黄葉と対照的に緑を増し、繁茂の季節を迎える。この時期の金婚を祝し、称える季語として「竹の春」に勝るものがあるとは思えない。
しかし私の思いに反して、この句を選んだ人は少なかった。「分かっていないなぁ」と私は心の中でつぶやいていたが、調べてみたら結婚記念日は一年目の紙婚式に始まり、ほぼ毎年と言えるほどに続いているらしい。金婚式の後も五十五年目のエメラルド婚,六十年目のダイヤモンド婚もある。そうか、まだ先があるのだ――。喜んではいられない。
(恂 22.10.13.)