路地裏に一坪ほどの竹の春 久保田 操
路地裏に一坪ほどの竹の春 久保田 操
『合評会から』(日経俳句会)
三代 路地裏の小さな竹の春に注目しているのが新鮮です。
朗 竹には風情がありますが、根を張り家や塀を壊しかねません。他家(?)のことながら、いささか心配です。
豆乳 郊外の宅地によくある光景。懐かしい。
十三妹 ああ。なんて良い句なんでしょうか。ほのぼのと、荒れた心を癒してくれます。
戸無広 小さな場所でも竹の生命力を感じます。
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ごちゃついた町中でも、背戸にささやかな竹やぶがあると落ち着いた感じになる。バブル経済が訪れる前の70年代には、東京23区内にもそうした家屋敷がたくさんあって、ごく普通の勤め人家族が住んでいた。しかし地価の暴騰とともに竹やぶや植え込みは片端から切られてしまった。この句はそうした中で奇跡的に残されている竹やぶだ。たとえ一坪でも心が休まる。
ただ朗さんが言うように、竹は油断するとぐんぐんはびこる。私の家も裏庭に植えた竹が猛烈に繁殖し手に負えなくなり植木屋に大枚払って根こそぎ抜いてもらった苦い経験がある。
「竹の春」と言われる9月、10月に「ひやおろし」という美味しい秋の酒が出る。春先に醸して火入れして貯蔵、夏を越して熟成した酒を二度目の火入れをせずに「冷や」で売り出すものである。爽やかにそよぐ「竹の春」を愛でるにふさわしい酒だ。しかし、我が家にはもう竹藪は無い。
(水 22.10.03.)