梅干は三尾に一つ鰯煮る 星川 水兎
梅干は三尾に一つ鰯煮る 星川 水兎
『季のことば』
家庭料理のレシピのような句である。「鰯」という9月句会の兼題に鰯を焼く、煮る、叩くなどの句が出るのは想定内だった。ほかの句は鰯そのものを詠んだり、鰯のある生活風景を詠んだりしたものが多かった。しかし、鰯の梅煮のレシピが句になっていることには少なからず新鮮味があった。この日の他の兼題「竹の春」と「当季雑詠」をふくめても、この句が最高点を得たのも新味があったということだろう。
実はこの句、合評会のなかでちょっとした改作が行われた。原句は「梅干しは二匹に一つ鰯煮る」だった。点を入れた人の一人、鰯の梅煮に一家言ある長老から異論が出た。曰く、「二匹に梅干し一つじゃしょっぱ過ぎ。せいぜい三尾に一つだね」。これに作者は「すみません、煮たことないので当てずっぽうでした」と白状し、会場は笑いに包まれた。さらに長老は、最近の若い主婦らは魚を数えるのに匹と言い、本来の尾を使わないねと指摘。もともと素直な作者はただちにこれを受け入れ、掲句のように改めることを申し出た。
合評の場の利点は句友たちがあれこれ意見を言い合い、句がブラシュアップされることにある。欠席者の投句だと、こう工夫すれば秀句になるのにという声が出ても勝手に改作できず、もどかしい気がすることがしばしばある。世の俳句愛好者のなかには、改作を良しとしない人もいるが、あの俳聖芭蕉も改作で名句を生んだと思えば、こだわることはないと筆者は思うばかりである。
(葉 22.10.02.)