猫じゃらし五分刈り頭陽に透けて 谷川 水馬
猫じゃらし五分刈り頭陽に透けて 谷川 水馬
『この一句』
句を見たとたん「そうなんだ、陽に透けて光るね」と可笑しくなり、やがてほろ苦い思いが湧いてきた。野原には猫じゃらしがはびこり、夏の暑さが去っていく頃。私たち、悪童どもの相撲の季節となり、私の思いはクリクリに刈り上げた一人の頭に繋がっていく。彼は小柄だが、なかなかしぶとく、立ち上がるとすぐ、私の胸に頭を付けてくるのだ。
上半身裸だから、私の胸の辺りは刈り上げたばかりの、あいつの頭でチクチクと痛い。それをものともせず、彼の体を引き上げながら、胸を合わせ、がっぷりの四つ相撲にしてしまえばこちらのもの――。相撲のライバルだった新聞店の息子の彼は、高校を出てすぐに新聞店を継ぎ、若くして区議会議員になったのだが、五十代で亡くなってしまった。
彼の頭は「五分刈り頭日に透けて」そのものだった。床屋に行き、バリカンで刈り上げた彼の頭は、誰よりも光っていた。原爆の記憶の生々しい頃のこと。小学校五、六年のクラスの悪童たちが、彼に名付けたあだ名が「ピカちゃん」とか「ピカドン」であった。作文の上手かった彼がいま生きていたら、俳句でもやっていたかな、と思うのだ。
(恂 22.09.26.)