この風はやっぱり九月隅田川    大澤 水牛

この風はやっぱり九月隅田川    大澤 水牛 『この一句』  九月の酔吟会で最高点を取った。一読、平明にして、素直に一気に詠んだ句だと感じた。難しい言葉や言い回しはどこにもない。隣人と世間話をしているような口語体である。筆者もお手本にしたいと思う一句だった。  この句は、清洲橋だか新大橋だかは聞き洩らしたが、句会直前に橋のたもとのベンチに座って昼食のサンドイッチを食べている時に出来たのだと言う。隅田河畔、この日爽やかな風が吹いていた。真夏のむっとした風と違いまことに心地よい。「ああ、やっぱり九月になったなあ」という心情がおのずと湧いてきた。上五中七の素直さ、簡明さはなかなか真似できない。(葉)                ☆  この句に出会い、俳句作品にも刺身のような「活きの良し悪し」がある、と気づいた。句会の会場は、江東区芭蕉記念館の一室。私はその会場の窓から、木の間越しにチラチラと光る隅田川の水面を見ただけで「おお、素晴らしい雰囲気だ」と大満足していた。ところが作者は記念館別館の芭蕉像のある屋上庭園や隅田河畔を歩いた。そして「おお、この風は九月の風」と気づき、掲句を投句予定の一句と取り替え、投句の中に加えたのだ。私も、掲句に“戻りカツオ風”の新鮮さを感じ、一票を投じている。  句会後の「一杯」を腹に収めた帰途、俳句作品における「活きのよさ」について考えた。この句を仮に別の句会に投句したらどうか。句会の時期と天候、状況などに左右されるが、条件にうまく会えば、好成績を収めそう…

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