秋暑し僕的にはなどと云ふ力士 大澤 水牛
秋暑し僕的にはなどと云ふ力士 大澤 水牛
『この一句』
「僕的には」と語る力士を微笑ましいと捉えた句とも、近頃流行りの物言いを批判する句とも、どちらにもとれる句であるが、「秋暑し」の季語と句会の顔ぶれから想像すれば後者だろうという気がした。
「僕的には」という物言いには筆者も抵抗を感じるが、こういう言葉がいつのまにか定着する可能性もないとは言えない。例えば、最近のことでいえば、いちばん嫌いな「~なります」という言葉は街中に氾濫していて、すでに定着してしまった感がある。「こちらスパゲティになります」と皿を出された日には食欲が急に減退し、食べずに逃げ出したくなってしまう。
作者は句会の中でも言葉の使い方にいちばん厳しい方。この句の自解には、「堂々たる姿と落ち着いた挙措、つい錯覚してしまうのだが、考えてみれば力士は概ね二〇代の青年、まともな受け答えを期待する方が無理なのだが、「僕的には」なんて言われるとがっかりする」とある。批判には違いないが、一方で、結構優しい眼差しも感じられるコメントである。批判というより、揶揄というところだろうか。
句会の後の酒席で、「僕的には」と発言したのは、あの六場所出場停止からようやく幕下にカムバックした元大関らしいと知れた。そうと知ると、相撲好きの爺さんの若い力士への応援の句と読めなくもない。朝乃山頑張れ! 筆者も「僕的には」同感である。
(可 22.09.13.)