円空とカミオカンデに秋の風   須藤 光迷

円空とカミオカンデに秋の風   須藤 光迷 『この一句』  江戸時代の仏師・円空と、宇宙の謎を探る最先端装置であるカミオカンデ。8月の日経俳句会に出された句で高点を得たが、この取り合わせに首をひねった選者も多かったのではなかろうか。読み解くキーワードは飛騨である。  円空は美濃国(岐阜県)に生まれ、修験僧として諸国を行脚した。12万体の造像を発願し、一刀彫のいわゆる円空仏を各地に残した。現在5千体ほどが確認されており、愛知県、岐阜県に多い。飛騨高山にも名作とされる千手観音像など500体が残る。  一方のカミオカンデは、宇宙から飛来する素粒子・ニュートリノを観測するため地下深くに建設された巨大な装置。1983年に完成し、超新星爆発に伴うニュートリノの観測に成功、小柴昌俊氏のノーベル賞受賞につながった。その設置場所は飛騨市にある神岡鉱山の地下千メートルである。  作者は旅行好きで知られ、全国各地を巡っている。飛騨にも足を向け、円空仏を拝み、カミオカンデを見学した時の感興を句にしたのであろう。  飛騨にこだわらずとも、句は読み解ける。円空仏は一刀彫の鋭い断面と慈愛に満ちた表情が特徴的だ。貧しい庶民の救済と平安を願い、日々の暮らしを見詰めている。地下深くから宇宙をにらむカミオカンデの視線と円空仏の視線の先に、秋の風が吹く風景を想像すると、心が澄んでくる。作者の本意はこちらかも知れない。 (迷 22.09.09.)

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