八月の白き風呼ぶカフェテラス  久保田 操

八月の白き風呼ぶカフェテラス  久保田 操 『季のことば』  「暦」の元の一つともなっている陰陽五行説という古代中国の哲理がある。万物は陰陽の二気と木火土金水の五元素の組み合わせによって生じては又消滅するという考えである。四季の循環もそれに従って起こるもので、春は草木が芽生え、日が昇る東方に配され、色で言えば青(緑)、夏は燃える太陽が主役だから方角は南で色は赤(朱)、冬は冷めたく水の性質を持ち暗黒で北に配され色は黒。これに対して秋は太陽が低くなり凋落の兆しが見え、金の性質を備え、西に配されて色で言えば白とされる。  この句はそうした思想を踏まえているのだろうか。八月も下旬になると、さしも猛威を振るった陽射しもやわらぎ、カフェテラスには時折ふっと涼しい風が吹き通る。「白き風呼ぶ」とはなんとも趣き深い言い方だなあと気を引かれた。それなのに句会で取れなかったのは「やはり八月では少し早すぎるかな」と思ったからである。作者はおそらく八月下旬の午後、陽射しが少し弱まった頃合いにこの感じを掴んだのであろう。芭蕉の有名な「あかあかと日はつれなくも秋の風」にも通じる、細やかな神経である。  さはさりながら、昨今の異常気象下の八月だと、白ではなく「赤い風」じゃないかなどと混ぜ返したくなってしまう。このあたりが「八月」という季語の扱いの難しさである。この句も「秋の午後」と置いた方が無難に受け取られる可能性が高まるかもしれない。 (水 22.09.08.)

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